首里劇場通史〜沖縄最古の劇場70余年の物語(5)


文:平良竜次
首里劇場調査団・副代表
NPO法人シネマラボ突貫小僧・代表


突然の不幸による館長交代劇

▲1990年初夏ごろの首里劇場(撮影:奈須重樹)

筆者が首里劇場に通い始めたのはピンク映画の三本立て上映を行っていた90年代中頃のこと。劇場に入ると客はまばらで、ほとんどが年配の男性だったことを覚えている。売り上げが低迷する中、田真館長は家族経営というミニマムなスタイルで乗り切ろうとした。

やがて世紀をまたいだ2002年10月、首里劇場に大きなアクシデントが襲った。田真館長が交通事故に遭い逝去したのだ。17歳からずっとそばで父を支え続けた政則さんが急遽、館長を継いだのは当然の成り行きだった。政則さんは当時を振り返って言う。

「叔父と親父が大切にしてきた劇場だから、自分が守らないといけない」

残っていた従業員も高齢のために辞めた。政則さんはたった一人で掃除から上映のセッティング、窓口のもぎり、そして建物の修繕さえも自分で行った。

経営のため、生活のためにと始めた成人映画興行だったが、政則さんは日々これらを上映するうちに、作品一つ一つの中に込められた作り手の情熱に惹かれていった。

「入口はエロ、出口は感動」

「笑いとエロは世界を救う」

自ら書いてロビーの壁に貼ったコピーを冗談めかして口にする政則さんだが、その思いは本物だ。そんな彼の熱い心意気に応える映画人もいた。荒木太郎監督は、長年の風雨に晒された建物が醸し出す佇まいに惚れ込み、首里劇場を舞台に2本の成人映画を撮影。政則さんもエキストラながら強烈な個性をフィルムに刻み込んだ。

ちょうどこの頃(2010年代)、首里劇場は上映するピンク映画の製作・配給会社をエクセスフィルムからOP(大蔵ピクチャーの略)に変更した。その理由を政則さんは「エクセスは過去作をタイトルだけ変えて新作という扱いにしていたんだよ。これじゃ客が飽きるから」と言うが、荒木監督の作品がOPで配給されているという事実も理由の一つとして挙げられるのではないだろうか。

またライターの長谷川亮さんも、激動の歴史を刻んだ首里劇場とアクの強い政則さんに出会ったことでドキュメンタリーの製作を決意。フィルムからデジタル上映へと移行する貴重な記録を『琉球シネマパラダイス』(2017年)という短編映画として纏め上げた。本作は国内のみならず、カンヌ国際映画祭やチェジュ国際映画祭で上映されて好評を博した。

再発見された首里劇場

2000年代に入ると興行面で新たな試みが行われるようになった。劇場の貸館である。

その先鞭をつけたのが、シネマラボ突貫小僧が2007年5月5日に開催した『探偵事務所5マクガフィン』(2006年/當間早志監督)の上映会である。メインはWEBシネマの劇場初お披露目上映だが、それに加えて主演の藤木勇人さん(現在はうちなー噺家“志ぃさー”として活躍)の独演会や、映画のヒロインである女優・洞口依子さんのウクレレユニット「パイティティ」のライブを織り交ぜた複合イベントとなっており、劇場は久々の満員となった。

2011年2月10日には沖縄で活躍するハードフォークユニット「やちむん」によるバンド結成20周年ライブを開催、好評を博した(しげなすレコード・シネマラボ突貫小僧:共催)。バンドリーダーの奈須重樹さんは10数年前より首里劇場の佇まいに惚れ込み、いつかここの舞台で演奏を…と胸に秘め続けていたという。その思いは尽きることはなく、5年後(2016年4月29日)に大編成の楽団とダンサーを従えた結成25周年ライブを開催、こちらも成功裏に終わった。

▲2016年に開催された「やちむん25周年Live@首里劇場」。外ではキッチンカーを用意。祭り感を演出した、

地域コミュニティからのアプローチもあった。「NPO法人首里まちづくり研究会」が「古写真・タイムトラベル首里」と題して、戦前から戦後にかけて大きく変貌した首里の町をスライド上映するシンポジウムを開催(2014年1月11日)。首里劇場のレトロな雰囲気も相まって、満員の観客から次々と貴重な歴史的証言が飛び出した。

▲古写真・タイムトラベル首里

また同年2月9日には国内外で精力的なライブを続ける大編成バンド「渋さ知らズオーケストラ」が沖縄公演を開催。激しいライブに興奮した観客が総立ちで、文字通り首里劇場自体が震えた。中でも特筆すべき出来事が、国際映画祭の会場となったこと。

▲渋さ知らズオーケストラ@首里劇場。

2018年と2019年の2年連続で沖縄屈指の大イベント「沖縄国際映画祭」の会場の一つとして選ばれたのだ。当日はこの「ゆかる日」を祝おうと、県立沖縄芸術大学の生徒による演奏が披露され、舞台には映画関係者や今をときめく全国区のお笑い芸人が次々と登壇。カルト映画の上映やサイレント映画の弁士付き上映などが行われた。

どの催しでも、訪れた人々が休憩時間にデジカメやスマホで劇場のあちこちを撮影して回る光景を目にした。今や首里劇場は、戦後復興期の活気ある沖縄を直接触れることの出来る「タイムカプセル」としての価値を見いだされたと言える。

▲2019年に開催された「第10回沖縄国際映画祭@首里劇場」

 

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